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長野式研究会


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症例報告

●長野式見聞記
vol.1 長野潔先生の臨床から…(1)

脉診と治療

長野式治療法の特徴の一つは、先に書きましたように、何と言っても脉診です。
長野先生は、脉差診も診ますが、主に、脉状診を中心に診断され、他に、経験から生み出された長野先生独自の脉診を行います。

例えば、「降圧剤により血管が拡張されている脉」、「糖尿病の脉」…など、西洋医学に直接関係した脉状です。
あるいは、「洪脉」は「心実」の脉であり、心臓病やリウマチの脉と言われます。
最初に、長野式治療法の特徴(2)に書きましたように、経穴・経絡に西洋医学的意義を付加しただけでなく、東洋医学の脉診で、西洋医学的な病気の診断をされました。これこそが、長野式脉診の真髄かと思います。

長野先生は、県立病院で理学療法をされていましたが、院長より許されて、時間の許す限り患者の脉診を診られ、これが非常に役に立ち、独特の長野式脉診を打ち立てられました。
病院勤務の方は、機会があれば、是非、多くの患者さんの脉を取られてはと思います。
何千・何万もの患者の脉に触れるうちに、ある日豁然として、「これが糖尿病の脉か!」と指先に感じると長野先生は言われました。「脉診30年」と言われます。その人の感性と努力によるでしょうが、若い方には、是非、頑張って習得して頂きたいと願っています。

先日、テレビのチャンネルを回していた時に、ある番組で、カップルの18歳の女性が、恋人に嫌われるのではと思い、話せなかった事を皆の前で告白するということがありました。それは、彼女が人のオーラを感じる能力があるというものでした。とても穏やかな女性で、その能力を誇示する訳でもなく、本人にとってはごく普通の能力で、逆に、それで悩んでいるとの事でした。

人間には、不思議な能力があると思います。やはり、長野潔先生も、脉診の時の研ぎ澄まされた指先に、普通の人には感知できない能力があるのではと感じます。視力障害のために、診断の手段を大きく制限されており、その視力の衰えを補うべく、脉診に全勢力を注ぎ、脉診に明け脉診に暮れた毎日を過ごされたのかと思います。
それに、『医道の日本』誌・臨時増刊号No.8に松本先生が書かれているように、戦死した友人が先生を支えてくれ、天才的な能力、霊的な力を与えて下さったのかも知れません。

多少の違いはあっても、一派を為した先人達は、努力はもちろんですが、卓越した能力があったのではと思います。
私は、長野先生のような脉診はできませんが、折に触れ、先生が脉診について述べられたことを書いていくつもりです。ご参考になればと思います。

症例…(1)
長野潔先生の臨床から、特徴のある、あるいは皆さんがよく診られるであろう症例について述べていきます。
 (1)・(2)・(3)…などの番号は、治療の順を表しています。
 ※=その治療に対しての説明などを補足します。
 …=治療の結果、変化した所見などを書きます。

【主訴】 両膝痛、頻尿。
【所見】 「洪・数」  ※左寸口の脉が強く幅が広い。リウマチ、「心実」の脉でもある。
【治療】 (1)

「関元」…「洪・数」が改善。
※「洪・数」の時に使用される代表的な処置。

(2)

「前帯脉」…右膝内側痛が減弱する。
※「帯脉」は下垂処置の一つであり、特に、膝内側痛に効果がある。
「前帯脉」に一番反応があったために使用。

(3)

C7〜T2の「横V字型椎間刺鍼」
※ここの「横V字型椎間刺鍼」は、多くの患者さんによく行った。
C7の椎間が狭いと、治り難いと言われた。また、椎間の狭小は、遺伝的な要素が大きいとも言われた。
特に、C7〜T2は、脳の血流を良くし、治癒を速める効果がある。高齢者には、「ボケ防止」と言われ、多用した処置法の一つである。

(4)

L5脇両側に、下方の仙骨に向け刺鍼。
※L5「上仙」の脇は、膝の屈曲に非常に関係がある。

(5)

「次リョウ」
※鼠径部に鬱血があると尿が近くなる。その時には、「八リョウ穴」の反応のある部位に深刺し、鼠径部の鬱血を取ると良い。

(6)

「経渠」(「列欠」でも可)
※頻尿のため。肉の落ち込んでいる所か、摘んで痛みの大きい方を選穴する。

(7)

「次リョウ」・「屈伸」の灸頭鍼。
☆以前の灸点…「胃の気」3点、「陰陵泉」、「公孫」
※何れも、膝疾患には非常によく使用される経穴。

【補足】

最初に、脉診により、「洪・数」のための本治法を行い、次に、主訴である膝痛と頻尿の治療を行っている。しかし、膝などの患部に直接刺鍼するのではなく、長野式治療法の特徴(4)でも述べたように、その原因となっているバックグラウンドを改善している。

長野先生は、膝の屈曲痛は、腰仙関節の硬化により、同側の膝関節が曲げ難くなると言われる。そのために、今回もL5脇両側に刺鍼し、更に「屈伸」(脊柱起立筋緊張緩和処置)によりL5脇の緊張を緩めている。「大腸兪」と「上仙」を結んだ‘大上三角’を緩めるのに、「屈伸」は多用される処置である。また、この‘大上三角’が堅いと、症状が取れ難いと言われる。完全主義者は、脊柱起立筋が緊張し易く、ここを緩めると、迷走神経・副交感神経を活発化させるとも言われた。

膝痛、及び頻尿は、共に下垂と非常に関係があるので、「帯脉」(「前帯脉」)を治療している。まさに一石二鳥の処置である。また、頻尿のためにも、「次リョウ」と「経渠」を治療している。このように、脉診から本治法を行い、それで様々な愁訴が改善することもあるが、残った愁訴や病気の原因に対して、バックグラウンドから治療するというパターンがよくある。


◇この症例は、私が先生の所へお伺いするようになった最初の頃のものです。年齢や職業、既往歴他、お聞きしていないことが多くありますことをお許し下さい。




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