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長野式研究会






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●時々日記
vol.10 時々日記 … (10)

あのとき以来…

松本岐子先生の治療の着眼点の一つに、「あのとき以来…」というのがあります。
患者さんの愁訴や病気が、「あのとき以来、発症した…?」と思われるときには、‘あのとき’が原因であることが多くあります…というより、ほぼそのことが原因となります。
例えば、「交通事故以来、視野がおかしい…」というときには、
西洋医学では、‘あのとき’よりも‘視野がおかしい’という方に目がいき眼科を受診することがほとんどでしょう。
しかし、「キ−子スタイル」では、‘視野がおかしい’と言うことよりも‘交通事故’の方に着目します。
そして、交通事故で打撲した場所やそのために負担のかかった部位に着目していきます。
眼科的な症状よりも、その症状の原因となった交通事故に関連のある所見を探し、こちらを治療していきます。
頭部を強打したのでしたら、強打した場所、また、強打した位置の反対側(コンントラクー=介達衝撃といって、打撲した逆側にその衝撃が達し、そこに所見が出てきます)など、あるいは、椎骨脳底動脈の反応域、頸椎などを精査し(もちろん基本的な所見も精査します)、圧痛などの所見が有れば「長野式治療法」や「キ−子スタイル」でその所見を改善、消失させる治療を行います。
それらの所見が消失していけば、眼症状も改善されていく…となります。

私が勤務していた神奈川県精神医療センターでも、「あのとき以来…」というエピソードがあるときには、鬱病の患者さんが優先的にこちらに回ってきて治療をすることになります。
また、医師も、この様な患者さんは改善することが難しい事がある…と話されていました。
私が診た患者さんに、20代始めに事故で頭部を打って以来様々な症状が出て、とうとう仕事も出来ずに退職し、40才位のときに、結局、鬱病との診断で入院してきました。
この方は、打撲に関係が有ると思われる所見を改善させる治療で完治とも言える状態で退院されていきました。

なぜこのようなお話しをするかというと、ネプチューンの名倉潤さんが、‘頸椎椎間板ヘルニア’の手術後、鬱病を発症しテレビの仕事からしばらく離れて休養するとの報道がありました。
まさにこれが「あのとき以来…」の典型的な症例かと思います。

我々の臨床では、この様なケースはよく診られることであり、逆に、患者さんの症状が発症したとき以前の既往歴をよく問診し、関連のありそうな所見をジックリ探すことになります。
名倉さんのように、頸椎椎間板ヘルニアの手術後すぐに発症したならば、それがすぐに原因と分かりますが、何年も、ときには十数年、それ以上かかってジワリ症状が発症してくる場合もあります。
これらの治療は、広く意味での‘傷治療’になるでしょう。
(頸椎椎間板ヘルニアを手術した=頸椎に傷を付けたという‘傷治療’)

ノンフィクション作家の柳田邦夫氏が書かれた「犠牲(サクリファイス)」という著書があります。
ご自身の息子さんが、中学2年生の時の休み時間にチョークの投げ合いをしていて、授業開始のベルが鳴ったので席に戻ろうとした時に、同級生の投げたチョークが当たり眼に内出血が発症する大ケガをします。
それからの息子さんの精神に変化が起き生活が変わっていく様子などが書かれています。
そして25才の時に自らの命を断ってしまいます。
柳田氏は、自死の原因が生活環境や自身の性格、親の育て方なども影響していると考えておられ、眼のケガが原因とは考えないが、発症のきっかけになったと捉えるべきなのでは…と述べています。
精神医療センターでN先生にお聞きしたところ、眼の内側の眼窩のところは、人間らしさを保つ役割と関係がある…と言われました。
果たして、柳田氏の息子さんの内出血を起こした部位がそこだったかどうかは分かりませんが、少しずつ人間性を保つことが困難になっていったのではと思います。
安易に述べることは慎みたいと思いますが、柳田氏の息子さんも「キ−子スタイル」では、「あのとき以来…」となるのかと考えます。

鍼灸治療の概念は、西洋医学とは非常に異なる場合があります。
「キ−子スタイル」の‘傷治療’は、西洋医学の概念では全く想像も出来ないのかも知れませんが、‘傷’に関しては、興味ある症例が私だけではなく、スタッフなどにも多くあります。
どうか、この「キ−子スタイル」の鍼灸治療法が、名倉さんまで届いて欲しいと願っています。

追伸 ちょうど《大宮会場》の‘松本先生の著書を共に学ぶ:再−ダイジェスト講座’(略称:‘再−ダイジェスト講座’)では、‘傷治療’に入ります。
‘傷’との不思議な関係や治療法を学びたい方は、是非、ご参加下さい。
(講座の宣伝のためにこの原稿を書いたのではないのですが…?!)
そして、偶然にも、‘基礎講座’も、‘傷治療’を学びます。


頸椎の傷が、どこに影響したのだろうか…



村上 裕彦 2019年09月


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