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●基礎講座からの便り vol.5
‘ネット基礎講座’ コーヒーブレイク − @
「コラム天王寺屋 …(1)」 『 「上四涜」の切ない思い出 』
‘問い−(1)’の応答を募集したときに書きましたが、「…果たして応答があるのかヒヤヒヤしていました…」という状態でしたが、有り難いことに‘問い−(2)’の時は、‘問い−(1)’の時とは比較にならないほど多くの皆さんから応答を頂き、嬉しい悲鳴を上げる程でした。
しかし、今度は、なるべく多くの皆さんの応答にコメントを入れて返答しようとしましたが、量が多くなりどこからまとめていったら良いやら、キーボードを打つ手が‘しばし’というより‘しばらく’動かず、ただ、モニターを眺めるばかりという状態が‘続いていました’というより‘続いています’。
その様なときに、《 長野式研究会 & w-key net 》の古典担当の博覧強記の和田仁宏先生から、以下の原稿が届きました。
少々長引くというより長引いている‘問い−(2)’の返答の合間に、和田先生の原稿をお読みになりながら少しくつろいで‘コーヒーブレイク’を楽しんでください。
(とはいうものの、中味はくつろげないほど面白くて集中しちゃいますヨ!)
‘ネット基礎講座’の途中というより始めたばかりでもう‘コーヒーブレイク’かよ…!?と思われた方も少なからずいらっしゃるともいますが、内容はとても興味深いものがあります。
(今回は、いやに…というより…が多用されていますが、ご容赦を…)
‘基礎講座’で学ぶ方は、この様な考え方が非常に重要であり(特に「キ−子スタイル」では!)、「エーッ、何コレ…?」と思うようでは、「キ−子スタイル」の道、非常に遠し…という状態です。
‘基礎講座’を終了され「長野式治療法」や「キ−子スタイル」を学び続けている皆さんにとっては、興味鍼々!
「イヤー、面白い!、楽しい!、なるほどネー!」となるのは必須!!
松本先生の八難治療のときの解釈が入っています。
ちょっと私へのどっこいしょも入っていますが、人間関係の潤滑油…くらいに読み飛ばしておいて下さい。
この間に、少し‘問い−(2)’の返答を進めておきます。
和田先生は、大の歌舞伎ファン!
私も一度、和田先生に歌舞伎初心者向けの楽しい舞台に連れて行って頂いたことがあります。
近寄り難いと思っていた歌舞伎も、初歩から観ていくと非常に面白く、和田先生の解説付きですので興味の深さが違ってきます。
(私の‘基礎講座’と同じですネ!…‘ネット基礎講座’に入って少々宣伝臭が鼻につきます!)
タイトルの一部の「天王寺屋」は、和田先生のご贔屓の故中村富十郎の屋号です。
これから和田先生のこの「コラム天王寺屋」が掲載されました暁には、自宅待機のお部屋でモニターに向かって、『待ってました!! 天王寺屋!!』のかけ声をお願いいたします。
さあ始まります。
待ってました!! 天王寺屋!!
『 「上四涜」の切ない思い出 』
村上先生が今般の情勢のなか始められたネット基礎講座。先生の実際の患者さんの症例を課題にして段階的に臨場感もって勉強していく。素晴らしい試みです。
最近某業界誌が、提示した課題に対するアプローチを多くの研究会から募集し、それを2か月にわたって掲載していましたが、症例情報の貧弱さや曖昧さ、情報提示の一貫性の無さなどに比べ企画において格段の違いと言えるでしょう(投稿された研究会の方々は真摯で参考になること大ではありましたが)。
基礎と銘打たれてますが実際の症例を段階的に検討してチェックしてもらえるのは実践的臨床応用講座ともいえベテランの先生にも是非応答していただきたい企画です。もちろん私も提出しています。
その中で問診票で最初に一番気になったことは?というはじめの問に対するメールへの先生の総括的返答の中で、片側の筋緊張というとすぐ筋緊張緩和処置と引き出しを出したくなるが、まずはしまってバックグラウンドを考えることをしてほしいとありました。
最も大事なことであり、初心忘るべからずなのですが、実はその部分で「丘墟・上四
」特に「上四
」という言葉をみて、症例が40代で不妊治療している女性ということも相まってある患者さんのことが思い出されたのです。そのことをお話しする前に少し「上四
」について考察してみたいと思います。
上四
は長野式を学ばれている方はご存知のように「四
」のやや上方に取穴するのでそう呼ばれるのですが、長野先生が三焦系を「特に脳神経系、錐体路系のみならず脳脊髄神経系に有効に作用する」経絡と考える中で最も重要視し多用されたツボといえます。
松本岐子先生と村上先生が長野先生を訪問された時のビデオがありますがその中でも上四
にたびたび刺針されています(かなり念入りに)。
松本先生は長野先生の『鍼灸臨床わが三十年の軌跡』の臨床例にある「築賓・兪府・上四
」のセット針の多様な使い方に共通項を見出し、難経の八難の考え方と組み合わせて‘八難治療’と命名されました。
医道の日本の2001年2月号から何回か掲載された「長野先生からヒントを得た八難治療」に詳しく述べられています。その中で松本先生が「上四
」について考察されているのでそれを引用し、私なりに付記しながら「(上)四
」の特性を見て行きたいと思います。
「四
とは、揚子江、黄河、准水、済水で、中国を貫通する四つの大きな水路である。これを四海と呼ぶそうです。」(「長野先生からヒントを得た八難治療(1)より)。
引用文献の明記がないので付記すると、中国最古の辞書と言われる爾雅(じが)(前漢の初期BC200年頃の成立と言われそれ以前の四書五経を読むための字書ともいわれます。よく中国最古の字書として『説文解字』を引用する向きがありますが後漢の許慎により部首別に編纂された最古のものという意義でありAD100年頃の成立)の『釈水』に「江河淮濟は四
を為す。四
は源を発し海に注ぐ者なり」。
「江河淮濟」とは黄河、揚子江、淮水、濟水という四大河を指します。
注ぐ海とは実際には黄河は今の渤海、他は今の黄海や東シナ海と全て東側の海になりますが古代中国では国土の四方は海に囲まれているとし、それを四海とした。
四
が四海それぞれに注ぐという記述の文献は見当たりませんが、そのように考えるのも理解できます。
「これを四海と呼ぶそうです。」というと四
=四海となってしまいますが、四海に注ぐものと考えればいいでしょう。
ここで「四
」は四大河ということがわかります。
「焦会元の『会元針灸学』によると、四
穴は四海に通じる経穴で霊枢の海論のことを言っていると書かれています。
すなわち四海とは水穀の海、衝脈で十二経の海でもある血海、
中である気海、脳である髄海。」(岐子先生の前述論文)。
焦会元という人の詳細はわかりませんが、『会元針灸学』は『古法新解会元針灸学』ともいい、1937年の発刊の鉛活字本とあります(百度百科より)。
この年は辛亥革命により清が滅んだ後の中華民国の時代ですね。
第二次世界対戦後内戦で共産党の支配になる前の時代です。
焦会元は馬王堆出土文献や古籍の研究で有名な馬継興氏に鍼灸を指南したともいわれます。
この書は当時の針灸学の有力なテキストであったようで経穴についての考察も豊富であったようですが私は未読です。
ここで四
は四海に通じていて四海とは霊枢の海論のことであると。霊枢の海論では古代中国の「人は天地の反映」という思想に則り四海に囲まれた国土と同じように人体にもまた四海があり、それは水穀、気、血、髄の海であるとされ、そしてその虚実の病症やそれを調整する兪穴が述べられています。
「焦会元によると
は独の意味があり、この四
穴のみが四海に通じると解釈している。」(岐子先生の前述論文)。
ここは松本先生の英文の本の四
穴の解説でも記述されています(『Kiiko Matsumoto‘s Clinical Strategies:Vol.1−395頁)。
後漢末(AD200年前後か)の劉熙(りゅうき)という人が編纂した字書『釋名』に「
は独なり。各々その水を出して而して海に入るなり」とありますがここを焦会元が引用したものでしょう。
四
は四海に直接関連する唯一のツボというわけです。
「
はまた水を抜き出す溝の意味もある。四海のダムの役割をしているように思われる」(岐子先生の前述論文)。
これは後漢の許慎の有名な『説文解字』 (AD100)の「
、溝なり」によるものでしょう。
溝のイメージは用水路ですが治水、利水という意味で河川の水の調節機構としてのダムとも言えるでしょう。
因みに英文の本ではdam(ダム)、reservoir(用水路)と表現されています。
岐子先生の論文ではその後に四
の臨床的意義が続きます。
論文にはないですが、例えば後漢末(2世紀頃)の応劭(おうしょう)の著作である『風俗通義』の「山澤」中に次の文章があります。
「江河淮濟は四
たり。四
は通ずるなり。中國の垢濁を通ずるゆえん」。四
は海に通じ国土の汚れや垢を流してくれると。人体の汚れの掃除をしてくれるとも言えます。
河とは周囲に肥沃な土地を提供し文明の基礎ともなる反面、氾濫による壊滅的な被害をもたらすこともあるという二面性を持っています。
そもそも古代中国では治水は大命題であり、神話の女
に始まり鯀そして禹と治水の歴史とも言えそれに成功した禹はその功績を讃え継がれているわけです。
長野先生は『鍼灸臨床新治療法の探究』の中で「上四
に雀啄を加えることによって様々な疾病の機能亢進や進行を防止する作用がある。三焦経の「上四
」は進行性の病気の時には大いに効果を発揮するようである」(455頁)と。まさしく氾濫を抑える治水ツボと言っていいでしょう。
ここでさらに考察しておきたいのは「
」という漢字についてです。
つくりの「
」はイクと読み細かい説明は省きますが「次々と連なる、流通する」というイメージがあります(漢字学者加納喜光氏による)。
「續」「讀」にも通じます。因みに続、読は国字(和製漢字)で、つくりは
と賣(売)が混同されたものです。
良く見ると違うでしょ。四
が四涜と表記されることがありますがこれも同じ混同です。
ここでおさらいすると、四
は
@中国=人体の四大水路でありそれは四海(人体では水穀、血、気、髄)につなっがっている。
A四海を唯一調整することができる。
Bダム、用水路であり、治水および利水のツボである。
『霊枢本兪篇』に「三焦は中
の府、水道出ずるなり」と。
中
は中国=人体の大河と解釈できるかもしれない。まさしく「四
」は三焦を代表するツボと言えます。
少々長くなりましたがツボの意味合いを感じとっていただいた上で切ないお話しをさせていただこうと思います。
3年ほど前のことですが、40才くらいの既婚でお子様はいらっしゃらないご婦人が四十肩様の症状でお見えになりました。
たしか子宮癌か卵巣癌のため両臓器全摘されお腹にはケロイド状の傷が縦にくっきりとまだ濃い色のままでした。
当然のことながらお腹の傷やホルモンバランスを念頭に治療を施し4回ほどでほぼ改善しました。改善後、睡眠が不調であるとのことで2回治療したのですが、その1回目のとき、恐らくいくらか残っている肩の症状かSCMの緊張のためだったと思いますが「丘墟」・「上四
」 (愁訴が右なので左を)の治療を行いました。
それまでの治療でもつかっていたはずなのですが、「丘墟」の次に「上四
」に刺針した途端、泣き出してしまったのです。
刺針が下手くそで痛かったのかと思いすぐ抜針したのですが、しばらくは涙がとまりませんでした。「痛かったですか、すいません」と謝り、その後そこには刺針しなかったと思います。
ご本人から特にコメントはありませんでした。
その次いらしたときの主訴はやはり睡眠障害だったのですが「丘墟」・「上四
」の処置がまだ必要と考え、今日は大丈夫だろうと思いながら「上四
」に刺針したのですが、やはりまた泣き出してしまい涙がしばらく止まらないのです。
私も途方にくれましたが、涙が止まってから確か「すいませんでした」とおっしゃっていたようですが、それ以上のコメントはなかったように思います。
結局それ以降いらっしゃらなくなりました。
「一体何だったんだろう。前の刺針の痛みの恐怖が今日も蘇ったのか。それにしては前回もだが痛いという声や表情はなくただ涙が吹き出してきていた気がする。」
その時ふと思ったのは、岐子先生が「上四
」をダムと言っていたことでした。
もしやあふれんばかりのダムの放水をしてしまったのではないかと。
そのあふれていた水とは子供が産めなくなった悲しみだったのではないかと。
肩の治療中にお腹の傷を意識していましたから、患者さんにも相当意識させたでしょう。
睡眠障害は、そういうことの影響もあったかもしれません。
痛いだけだったら、子供じゃあるまいしあんなに泣くこともないはず。
実際のところは分かりませんが、そのように考えた時何か切ない気持ちが押し寄せてきたものです。
世の中には子供が欲しくても様々な事情で叶わない方も多くいるでしょう。
鍼灸師の中にもいらっしゃると思います。
村上先生の症例の患者さんは不妊治療中ですが、すでに40代後半に入っており心持ちはどんなだろうとこの記憶を思い起こすきっかけにもなりました。
このような経験を書くのはいかがなものかとも思いましたが、鍼灸師は自らの事情にかかわらず様々な背景を持った患者さんに寄り添い手助けをしていくのだと思えば、このような体験を記すことも許して頂けるかなと思った次第です。
『村上からのコメント』
「コラム天王寺屋」如何でしたか。
和田先生の古典の知識、凄いでしょう!!!
次回からの「コラム天王寺屋」…、「待ってました!、天王寺屋!!」とかけ声をかけたくなりますでしょう!
‘乞う、ご期待!!’
私も患者さんが治療中に突然涙を流す症例についてお話ししたいと思います。
最近はほとんど無くなりましたが、以前は治療中に突然涙を流す患者さんが少なからずおられました。
何度か通院後、治療中に話している途中で突然患者さんの言葉が止まり、どっと涙が溢れ流れることがありました。
それも、涙がポロッと出る…というような感じではなく、滂沱(ぼうだ)の涙というような、止めどなく涙が溢れ出る感じで、最初は大変驚き、何か悪いことをしてしまったのか…と、心臓をバクバクさせながら、それまでの治療内容や会話を必死に思い返しているうちに、患者さんが渡されたティッシュで涙を拭いながら「ごめんなさい…」と言われたまましばらく沈黙されていました。
このような患者さんを何人か診ているうちに、そのまま治療しながら涙が収まるのを静かに待っていると、そのうちに患者さんから「済みませんでした…」というような言葉があり、穏やかな雰囲気に戻り、何事もなかったように帰られました。
不思議なことに、その後、2〜3回で必ず症状が改善し治療終了、あるいは、健康のために継続…となります。
初診や最初の頃の治療でストレスになっていることを話す場合もあり、また、涙の後から次回の治療時に話されることもありますが、症状の奥に、父親との激しい確執、後妻さんに入られた患者さんと前妻さんの息子とのトラブル、てんかんを持たれている患者さんの不安…などを長く抱えていたのでしょう。
押さえていた深い苦しみや悲しみが、鍼灸治療により苦悩の解放を求めていた患者さんの琴線に触れ、涙と共に表出し洗い流されたのではと思います。
鍼灸治療は、患者さんとの会話をすることが多く、時には、施術者と患者さんとの生きてきた人生が共鳴するようなこともあり、また、自らの身体を施術者に任せ、身体中を触れられますので、精神的に緊張が緩み潜在意識の固く閉じていた扉を自然に開く効果があるのかと思います。
刺鍼痛であれば患者さんが「痛いっ!」と言われたり、不快なことを言ってしまったのならば表情に現れますからすぐに分かるかと思います。
そうではなく、患者さんに自然に涙がこぼれるときには、心に治療が届いたのかも知れません。
そしてその様なときには、患者さんの涙が止まり穏やかな表情になるまで、そっと寄り添う気持ちでいるのが良いかと思います。
ストレスを解放する方法の一つに、‘泣くこと’がありますが、鍼灸治療は‘泣かせて’ストレスを改善させる治療もできるのでしょうか…?
そして、それに「上四涜」が大きな役割を果たす経穴の一つなのかも知れません。
「上四涜」は、「築賓」・「上四涜」は甲状腺機能亢進に、「漏谷」・「上四涜」は中耳炎などに、長野潔先生もセット鍼として良く使用されていました。
皆さんも、「上四涜」の古典的背景をベースにした治療を試してみて下さい。
ただ、私の経験の時に、果たして「上四涜」を使用していたかは今では全く記憶にありません。
松本先生の「上四涜」の経穴解釈を、更に和田先生が深く「上四涜」の解釈を掘り下げて、そして更にそれを涙を流した症例に結びつけています。
このように経穴の解釈が、松本先生の治療体系のベースにあり、それを学ばれた和田先生のような方が更に深く広く研究されて、鍼灸治療をレベルアップさせて下さいます。
コロナ騒動が始まる前に、和田先生と一杯やりながら、また古典講座を持って欲しい…とお願いする予定でしたが中止となってしまいました。
コロナが終息したら、是非、古典講座を開講したいと思っています。
その折には、皆さん是非、ご参加下さい。
何と言っても古典が基礎にある治療は応用もきくし治療に幅が出来てきます。
そして開講の暁には、
「待ってました!、天王寺屋!!」
ですネ!
さあ、1時限目のコーヒーブレイクも終わりです。
皆さん、次の仕事にお戻り下さい。
私も、次の‘ネット基礎講座’の準備のために腰を上げます
座ればボタン…、ゆっくり座ってコーヒーを一服。
熱くなった脳を冷まし、さあ次は‘問い−3’
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